YUTAchanの
お勧めの山
  貫山 (ぬきさん712m 福岡県北九州市)

【はじめに】
JR日豊本線小倉駅を大分方面に特急なら7分程走った安倍山公園〜下曽根間、国道10号線なら都市高速長野出口〜津田交差点付近、九州縦貫道なら熊本方面下り線、吉志PA〜小倉東ICの間で前方に両翼を広げた三角錐が見えてくる。
山好きの人なら誰もが注視するであろう車窓風景であるが、意外と知られていない平尾・貫山塊の最高峰貫山(712m)である。

貫地区から見る秀麗な山容の貫山
メンバーお勧めの山にふるさとの山を紹介するのは手前味噌になるし、単なるお国自慢になってしまう。しかし、深田久弥著「日本百名山」での姉の嫁ぎ先の山、荒島岳と同様に私はこの山を、身びいきなしで素晴らしい山だと思う。
私の山登りの原点となり、やまびこ会に入会する遠因ともなった不思議な力を持つこの山を、敢えて紹介させて頂きたい。
人それぞれ山への好み、視点は違う。だからこそ面白い。WAKABAさんによると、彼女の好みは豊かな原生林と澄んだ渓谷を持つ山だとの記述があった。花や鳥、中には酒が好きで登る人も多い。
私の場合は、山の歴史、生い立ち、そして容姿に興味を持つ。人間と同様相手を深く知る事と、山麓や遠くの山から望んで姿形の良い山に私は惹かれ、登高欲も湧いてくる。
【貫山概要】
貫山は標高712m、北九州市小倉南区に位置する。平尾台に隣接しているため平尾台の最高峰と記述される時もあるが、石灰岩質の平尾台に対し、貫山は花崗岩質で、その成因は全く異なる。
平尾台が生成された後、火山活動によって貫入したのが貫山で、その熱変成により平尾台の石灰岩の中の海中生物の化石が融解してしまったそうだ。山口県の秋吉台が多くの化石を産するのと、対照的である。
別名、芝津山、企救富士。北麓には室町時代の梵鐘のある芝津神社がある。企救(富士)とは、この地域の古い地名(企救郡)により、貫山も全国にあるご当地富士の一つである。
貫山と平尾台は、隣接しており切っても切り離せないが、平尾台の紹介まで書くと膨大になり、またそこまで知識も深くないので、ここでは省略する。

貫山から水晶山への山並み

【私の山登りの原点】
私は貫山の北麓、貫小学校・曽根中学校の出身。育ちは貫山が一番美しく見えると自負する津田で、子供の時から貫山のある風景を当たり前の景色として眺めてきた。
小学校低学年のまだ世界観が狭い頃、三角ベースの野球を行う空き地から、堀越に発し貫山より水晶山に連なり、朽網に至る長い長い壁が正面に見えた。
子供の視野には、その壁までが日常の世界であり、壁の向うは未知の世界であった。そのうち登校時や野球に興じる折、あの山壁の向うには何があるのだろう、あの山の頂上からは何が見えるのだろうと思い出したのが、私の山登りへの興味の第一歩であった。今でも初めての山には、同じような気持ちを持つ。
そのうち、地理が分かるようになり、さらに小学校3年生位の遠足で初めて貫山に登り、山登りへの興味が少しずつ湧いてきた。
以来、隣りの水晶山での水晶探し登山を含めて、何度登ったかわからない。
小学校卒業のお別れ登山、高校入学前初めて買ってもらったキャラバンシューズとザックでの足慣らし登山、妻が結婚前、全く山に興味が無かった頃初めて連れて行った山も貫山であった。
貫山は、私の人生の節目節目に常にかかわっており私の山登りの原点となった山である。

【貫山とTakaさん・白川の里から】
昨年の春、我が会社にもインターネットが導入された。一通り色々やってみて、語句によるHP検索が出来る事を知った。「goo」にて貫山と入れてヒットしたのがTakaさんのHP「白川の里から」であった。
それによると、貫山の南側、苅田町白川地区在住の方が、ふるさと紹介と登山のHPを開き、地区紹介で貫山を紹介していた。
一瞬、愕然とした。幼い頃より貫小学校に通い自分達の山と思い込んでいた山が、全く違った視点で紹介されていたのだから。水晶山の向うに等覚寺という春の祭りで有名な地区が有る事や、南側の行橋市の平野部から貫山がNTTの中継塔越しに良く見える事も、中学生の頃より知っていた。しかし、南側の人で貫山に興味を持つような人やオラが山的な感覚を持つ人はいないと、勝手に思い込んでいたのだ。あの壁の向うには、パラレルワールド・もう一つの貫山と地域の人との結びつきがあったのだ。

当然の事ながら貫山は、写真語句共に南側からの視点で描かれていた。小倉側(北)から見た貫山は冒頭にも記したようにシンメトリーで秀麗な山容だが、南から望むと左右不均衡な丸っこい山容となる。だが、Takaさんにとってのふるさとの風景は丸っこい山容の貫山のある景色だった。

白川側から見る丸いおおらかな山容の貫山

そう考えると、HPは白川地区の紹介であるから、貫山を南側からの視点で紹介するのは当然である。ただその時は、秀麗な貫山を世間に紹介して欲しい思い一心で、失礼を承知で勇気をふりしぼり、Takaさんへメールした。最初からTakaさんが、北側の貫山の写真をHPで紹介していたら、メールを送っていなかったと思う。
北からの貫山も紹介して欲しいという私のリクエストに対し、Takaさんから、早速丁寧な返事をいただき、何度かのメールのやりとりの後、私が撮影した小倉側からの貫山からの写真を掲載していただいた。
掲載で一段落し、その後もいつも「白川の里から」は見させていただいていたが、年賀状をやり取りする程度に収まっていた。
【貫山とやまびこ会】
そのTakaさんが、ひょんな事からやまびこ会会長であるなかむとしさんと結びついた。
今年の1月、ある会でなかむとしさんと山の世間話をしていた。なかむとしさんとは仕事上のお付き合いだが、彼が3年程前新聞に登山の趣味を紹介されて以来、時折山の話しをさせて頂いていた。(後で判ったが、その記事を書いたのはシュートさんだった。)
いつか一緒にいきましょうと言われていたが、色んな会に所属されていたし、社交辞令の一つと受け取っていた。その時の話しの中で、12月にインターネットで知り合った人達と山に登ったと聞かされた。やまびこ会第2回の馬口岳の事だ。
私もインターネットで知り合った、山登りのHPを持っている人を知っていますよと、Takaさんの事を教えてあげようと話
した。ところが、なんとTakaさんもやまびこ会の一員だったのだ。
早速TakaさんにメールをしたらTakaさんもビックリしているようだった。その後、共通の知人がいるおかげで参加してみたくなり、その月の黒岩山の例会に初参加させて頂いた。Takaさんは、直前に身体を痛めて来れなかったが、上泉水山山頂で携帯電話で初めて話しをした。その後、2月の三俣山でTakaさんとは初めてお会いしたが、以来月一ながら、子供が生まれ暫く遠ざかっていた山登りを再開する事になった。Takaさんとも街でも何度か痛飲した。
貫山がきっかけとなり、この素晴らしいやまびこ会との出会いが実現したと思う。
Takaさんとは、いずれやまびこ会で白川の里と貫山平尾台を巡る山行を計画している。

【万葉集と貫山】
万葉集巻十一に以下のような歌がある。
「朽網山 夕居る雲の 薄れ行かば 我は恋なむ 君が目を欲り」
日本百名山の九重山の項では、この歌は九重山を詠んだとされている。
クタミがクサミ、さらにクスミに転じ久住という字が当てられたと著されている。
現在も朽網(クタミ)分かれ、という地名も久住高原に残っている。
しかしその後の研究で豊前(北九州)の朽網山説が生まれ、論争の結果豊前説になったそうだ。
その豊前朽網山が、貫山〜水晶山に至る山域である。
貫山塊の東端が朽網で、JR日豊本線には朽網駅がある。
北九州から行橋に至る地区は古代より開けており、古墳や史跡が多い。万葉人もこの山々を眺めふるさとの山として崇めていたと思うと、なんだか嬉しくなる。
【貫山の登山路】
貫山の登山口は大きく考えて四つある。一つは古くからある小倉側、上貫から。二つ目は、NTT無線中継塔から尾根伝いに。三つ目は、広谷の入口中峠から。四つ目は、平尾台吹上峠より大平山を経て二つ目のルートと合流するものである。一つ目のルートから順に紹介したい。

@貫登山口=15分=母原林道=60分=貫権現上宮=10分貫山(標高差約500m)
JR日豊本線下曽根駅より曽根中学校を右手に見て、バスの終点上貫まで車で約15分。
国道10号バイパスなら、貫交差点より西に向かい上貫バス停まで10分弱。
そこからさらに貫山へ伸びる細い車道を行く。途中、虹鱒の養殖をおこなっている豊秋園への道を左に分け、急坂の細い曲がった道を注意しながら進むと、上貫バス停より約10分で貫権現の碑と鳥居のある登山口に着く。駐車スペースが4台ほどある。
この先には、薬草園があり、そこまで舗装されている。そこからはゲートがあり、上では母原へ抜ける林道と合流する。さらに上へ行けるが、道も悪く歩いても15分程度なので鳥居前に車を駐車した方が無難である。
登山口より鳥居をくぐるとすぐに道が二股に分かれる。何の標識もなく迷うが、左は送電線の巡視路で、右の道を登る。すぐに林道に出る。


林道から見る貫山から水晶への山並み
林道を歩くとすぐに左手に貫山と書いた、小さな標識が現われ、左手の小さな沢に下りる。このまま林道を歩いても、いずれ一緒になるが、距離的にも遠回りになるので沢に下ったほうが良い。10分程で、朽網の昭和池と母原を結ぶ林道に飛び出す。薬草園からの林道も一緒に合流する。
林道を右手に歩くと左にカーブして、そこに又小さな標識があり、ここからやっと山頂まで林道と別れることができる。
杉の植林の中、露岩の多い石段みたいな急坂を一途に登る。展望はほとんどない。
50分程で植生が自然林に変わると貫権現の小さな上宮のある広場に着く。ここには、わずかだが水場もあるが、渇水期はあてにならない。傾斜も次第に緩やかになり、やがてすすきが目立つようになると、山頂は近い。
上宮から約10分で三等三角点のある、山頂に至る。

貫山山頂山頂は北西が多少潅木のため展望が利かないが、その他は西の福智山から平尾台の最高峰竜ヶ鼻、南は広谷湿原の向うに英彦山から犬ヶ岳の山並み。さらに由布・鶴見連峰。東は水晶山から周防灘、山口県宇部方面。海上に建設中の新北九州空港。北は足立山から戸ノ上山、小倉の市街地、響灘、馬島、六連島と素晴らしい展望が開ける。私は見た事がないが、条件が良いと、四国まで見えるらしい。腰掛けるのに丁度良い、露岩もいくつかある。

ANTT中継塔=40分=貫山(標高差約200m)

貫山に最短で登るルートである。平尾台より車で中峠を越え、中継塔まで約20分。中継塔周辺には5〜6台駐車できる。
中継塔脇の階段を登ると、2分程で貫山から水晶山に至る尾根に飛び出す。北側に曽根平野、周防灘の展望が開ける。これから向かう貫山が、北に傾いでまあるい姿を見せている。広々とした尾根を歩くと、20年ほど前の山火事殉職者の慰霊碑がある。この山域は、野焼きを行い、草原が多いので山火事も非常に多いが殉職者が多数出た時の様子は、子供心によく覚えている。自室の山側のすりガラスが、夜中も真っ赤に染まっていた。
九電の鉄塔を過ぎ、南側の尾根を歩く。オフロードバイクの影響と、雨水で山道がえぐれた部分もあるが、緩やかな展望の良い道を歩くと、40分で貫山頂に到着する。
このルートは、展望も良く標高差や歩行時間も少なく、危険個所もないので、小さな子供や家族連れ、集団登山(駐車場が問題だが)に最適である。


中峠付近の草原風景

中峠から貫山への尾根道
B中峠=40分=貫山・水晶山の尾根=20分=貫山(標高差約300m)
中峠付近に車を駐車して、すぐの尾根を北に縦走しAのルートと合流しても良い。九重を思わせる、草原のなだらかで広い尾根である。

C吹上峠=30分=大平山(おおへらやま)=60分=貫山・水晶山の尾根=20分=貫山
(アップダウンをみた実質標高差約500m)

平尾台の玄関、吹上峠から平尾台の北に連なる尾根を貫山に至る、ちょっとした縦走コースである。
このコースも登山口より山頂まで、まったく樹木にさえぎられる所が無い。
吹上峠の広い駐車場に車を置く。峠から、ジグザグの展望の良い急斜面を行くと、30分足らずで大平山に着く。一般の観光客も、ここまで沢山登ってくる。
頂上は、広く遮るものがなく平尾台の最高の展望台である。山頂より尾根をたどる。途中、カルスト(羊群原)の岩場を乗り越える所や、急登もある。噴火口のような、巨大なすり鉢状のドリーネ、「大穴」を左に見ながら、中峠からの尾根に
合流し、やがて貫山〜水晶山の尾根に合する。天気の良い日には、平尾台と貫山を両方楽しめる、変化に富んだコースである。

D総括
貫山のルートを四つ紹介したが、福岡・九州の山に関するガイドブックに紹介されているルートは、全て平尾台側からのルートである。小倉からのルートの紹介は、一度も読んだことがない。著者が、福岡方面の方が多いので、どうしてもアプローチのしやすい平尾台からのものになってしまうのだろう。
登山対象としてのお勧めは、小倉側の@から、Bの中峠へ下るコースである。
ピークハントや、ファミリィー登山なら、AやCでもいいが、貫山はまず登る前に、その秀麗な姿を仰いでから登って欲しい。只、車の場合、回送に時間がかかるのが難点である。
他にも、東の水晶山と組み合わせたり、湿原の広谷の東の尾根を歩くルートもある。一部、下草が茂っている所もあるが、いずれも展望の良いコースである。

【これからの貫山】
ススキと自然林におおわれた優しい貫山だが、林道と植林化による変化は著しい。登山道も寸断されわかりにくくなっている。近いうち、迷いやすい所に標識を建てようと思っているが、なかなか実行に移せない。
登山道のブッシュ化も、平尾台ルートからだけでなく北からの登路を使う人が増えると、少しは防げると思う。
山というものは、あまり人が来すぎると興ざめだが、逆にあまりにも人が少ないと荒れ果ててしまう。
北九州市内の学校集団登山も、皿倉、福智山は市内全域から登られているが、貫山は麓の地区からしか登られていない。
私の妻は高校の時、皿倉山登山で安全ということで車道を頂上まで歩かされ、登山のいうものが一発でいやになったそうだ。せめて、平尾台からでも貫山に登って欲しい。
日本人の心の中に富士山があるように、この小倉南東地区と京都平野に住む人のふるさとの風景には貫山がある。貫山が何百年、何千年後もこの地区の人達に愛され、シンボルであり続けてくれるよう祈りたい。


        <2000年9月 YUTAchan記>


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